研磨は日本刀完成期にすでに現在ほどではありませんが高度な技術に達していたであろうと推測されています。昔も名刀を鑑賞していたわけですから切れ味の追求以外に美しさの追求も同時に行われていたはずです。 次のページでは拵え修理、錆身研磨後はこうなるという実例をご紹介します。

研磨に好ましい環境

北向きの部屋が良いと言われている。これは光の変化が少なく、刀の研磨、鑑賞が最も正確にできるからである。水を大量に扱うので湿気を十分吸収するひのき等と建材としたほうが良い。またちり、ほこりは研磨のさいヒケ傷の原因となったりするので常に清潔でなくてはならない。

研磨に必要な道具類

砥石の種類は下地砥が6種類、仕上げ砥が2種類です

下地砥(したじど)

  1. 伊予砥(いよど) 昔は常見寺砥を使用していたが産出されなくなった愛媛県松山辺りから産出される色は黄白

  2. 備水砥(びんすいど) 熊本県天草地方が産地、黄白色

  3. 改正砥(かいせいど) 明治末期位から研磨で使用するようになったといわれている。山形県が産地、赤茶、黄白色

  4. 名倉砥(なぐらど) 愛知県南設楽郡が産地、色は黄白

  5. 細名倉砥(こまなぐらど) 愛知県南設楽郡が産地、色は黄白

  6. 内曇砥(うちぐもりど) 産地は京都山城で色は灰色

金剛砥と呼ばれる人造の砥石も錆びがひどいなど状態が極めて悪い場合に使用する。近年は良質なものが生産できるようになった。

仕上げ砥(しあげど)

  1. 刃艶砥(はづやど) 良質の内曇砥から薄く紙のように磨きだして1cmくらいの大きさにして作られる。

  2. 地艶砥(じづやど) 鳴滝砥を薄く紙のように磨きだして1cmくらいの大きさにして作られる。さらに細かくする場合もある。

仕上げに使う道具

  1. 磨き棒 鎬地や棟を黒く磨くために使用する。超炭素鋼で出来ている。

  2. ヘラ 磨き棒と同じ目的で使用される。

  3. イボタ 鎬地と棟を磨く時に使う、原料はかいがら虫で打ち粉のようにして使う。

  4. 角粉 鎬地と棟を磨く時に使う、原料は鹿の角を焼いて粉にしたもの。

  5. 金肌(かなはだ) 刀身を拭って光沢を出すために使われる、刀剣の鍛錬のさいにでる酸化膜をすり潰して濾過して使う。

その他の道具

  1. 研ぎ台 ひのきで作られている。

  2. 砥台 砥石をのせる台。

  3. 砥石枕 砥台に置かれる砥石に傾斜をつけるために使用する。

  4. ふまえ木 砥石が動かないようにする。

  5. つま木 ふまえ木を踏んだ右足の前をのせる。これによって水が足にかからないようになっている。

  6. 机木(しょうぎ)腰掛のこと

  7. 水桶 研ぎに必要な水を貯めておく。

  8. ナルメ台 帽子の仕上げで使用する。

研磨の工程(下地)
  1. 伊予砥、備水砥の工程は鍛冶研ぎが終了したものか錆びたり変形した刀の形を整え刃をつける基本的なものである。押す力で研ぐ、この段階が研磨の良し悪しを決定する。これ以後の工程はこの時の砥目を消していくものと考えて良い。

  2. 改正砥は前工程の砥目を除去するのが主な目的で筋違に当てるのが良いと言われている。効きがよく肉を落としやすいので注意が必要である。また切っ先にはあてない。刃先を僅かに残して研磨する。

  3. 中名倉砥は2工程あり最初は大筋違いに砥石を当て、次に刀身を少し斜めにしてしゃくるように研ぐ。この段階で白鞘等の工作に出すのが一般的である。

  4. 細名倉砥は下地の仕上げの段階で今までの砥目を残さず消してしまわなければならない。そうでないと内曇砥がきかなくなってしまうので入念に行わなければならない。鑑賞目的となった現代ではなおさらである。

  5. 内曇刃砥この段階では平らに研ぎ押すことよりも引く時に力を入れる。熱を持って熱くなる程、時間をかけて行う。理由は刃中の働きが十分に現われるようにするためである。

  6. 内曇地砥は刃砥より硬めの砥石である。この工程になりようやく地鉄や刃文が見えてくる。短く引いて研ぐことが大事である。これで下地研ぎは終わりである。


仕上げ研ぎ

工程は刃艶、地艶、拭い、刃取り、磨き、横手切り、ナルメで行われる。この段階を経て鑑賞に耐え得るものになる。これらの技術は高度であり、昔は秘伝であった。しかし下地研ぎが悪い場合は仕上げの真価が発揮できない。

  1. 刃艶砥を使って刀身に艶が出てる。そしてこの砥石で刃を研磨する。使い方は砥汁をかけて下から上へと磨いていく。そして刃と帽子の部分を研磨していく。この作業の目的は沸、匂を出すために行われる。

  2. 地艶砥は鳴滝砥を細かくしたものであるが性質が違うので刀をよく鑑賞して最適なものを吟味しなくてはならない。まず鎬地から研ぎはじめる、鎬地は後で磨くので入念でなくてもよい。そして棟を磨いて、最後に地を研ぐ。砥汁が途中で出てくるが洗い流してしまうと潤いがなくなり拭いの段階で苦労することになる。

  3. 拭いは金肌等を用いて地鉄に光沢を出す作業だが地鉄によって差があるのでこれも考慮しなくてはならない、また新刀なら新刀らしくな研師の経験、センスが要求される。現代の技法が完成したのは明治時代でそれ以前は金肌を使うことは邪道だったようである。

  4. 刃取りとは拭いを入れて焼刃も地鉄と同じように黒くなってしまったものを刃取艶で拾って白くする作業である。ただ白くすればいいのではなくその刀らしくとここでも高度な技術が要求される。

  5. 磨きには下磨きと上磨きがある。この作業で棟と鎬地を磨き棒で磨いて光沢をだすのである。下磨きはヘラを使って行い、上磨きで磨き棒を使って下磨きのムラを完全に無くしていく。注意すべき点は肌をまったく潰してしまってはいけないということである。

  6. 化粧磨きは、はばき元と棟に何本かの線をいれる。これは研師のサインのようなものである。

  7. ナルメは帽子の仕上げのことである。帽子以外の部分は布などで巻き傷がつかないように保護して行う。特に上質な刃艶砥を使用する。この段階で横手も切る。

まとめ

 これだけの段階があるので素人が研いで仕上げることはできません。ただ刃を立てるだけなら誰にでも出来ます。しかし、日本刀らしさは全く失われてしまいます。錆びの程度では研磨代は変わりません。むしろ素人研ぎによって変形したりした場合の方が高くつきます。名刀が現代に伝わっているということはその時代の一流の工作を受けて大事にされていたからであると思います。工作代には結構、値が張ると思いがちですが。工作をして生き返らせた時の感動を考えたらむしろ安かったと思うことが出来ると思います。